「戲談(じやうだん)ぢやない、まだ眞暗ぢやないか!」 「もう出なさりませう。」  と、ゆる/\力無く言ひながら立上つて、爐の方に行つて、妹の下手に音無(おとな)しく坐る。氣が附けば浴衣はお揃ひだ、彼家(あすこ)にしては珍らしいことをしたものだと私は不思議に思つた。 「厭だよ姉さんは、もつと離れて坐んなれ!」  と、妹は自身の膝を揃へながら、突慳貪(つつけんどん)に姉にいふ。  すると母が引取つて、 「お前が此方においでよ、斯んなに空いてるぢやないか。」  と、上から被つてゐる自身の夜着の裾を引寄せて妹に言ふ。千代は心もちその方にゐざり寄つた。お兼は母の意を受けて鑵子(くわんす)に水をさし、薪を添へた。 「姉さんの方が餘程小さいね。」  と兩人を見比べて私がいふ。  妹は姉を見返つてたゞ笑つてる。 「千代坊は精出して働くもんだから。」  と、姉は愼しやかに私に返事して、 「お土産を私にも難有(ありがた)う御座んした。」  と、これもしとやかに兩手をつく。 「ハヽヽヽヽヽ、これもお氣に入りやんしたらうね。」  そのうち母の平常の癖で葛湯(くずゆ)の御馳走が出た。母自身は胸が支(つか)へてゐるからと言つて、藥用に用ゐ馴れて居る葡萄酒をとり寄せて、吾々にも一杯づつでもと勸むる。私はそれよりもといつて袋戸棚から日本酒の徳利を取出して振つて見ると、案外に澤山入つて居るので、大悦喜(おほよろこび)で鑵子の中へさし込む。お兼が氣を利かせて里芋の煮たのと味附海苔とを棚から探し出して呉れる。その海苔は遙々東京から友人が送つて呉れたものだ。  二三杯立續けに一人で飮んで、さて杯を片手にさし出して皆を見しながら、 「誰か受けて呉んないかな!」  と笑つてると、母も笑つて、 「千代坊、お前兄さんの御對手をしな。」 「マアー」  と言つて、例の媚びるやうな耻しさうな笑ひかたをして、母と私と杯とを活々した輝く瞳で等分に見る。 「ぢや一杯、是非!」

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